It's a rumor in St. Petersburg

アラサー学生です。主にまんがの感想を書こうと思っています。

桐生先生は恋愛がわからない。 小野ハルカ(著) 感想(ネタバレあり)

 

 

 私は普段OLなどやっているんですが、社会に出て初めて知ったのが、「女ってだけでこんなに差別されるの?」ってことでした。男性と同じ職種で働いていても、性別によって与えられる仕事が全然違うんですよね。未だに女性だけお茶くみや掃除当番があったり、出張に行けなかったり。まあ、私の会社が異常に遅れているだけかもしれませんが、2000人以上社員がいて女性の総合職が30人以下、その30名弱のためにわざわざ会社は今までの性別で仕事を分けてた時代からの習慣を変えるつもりはないんだな、ということを色々な面でひしひしと感じます。男女雇用機会均等法ができて30年以上、未だに総合職の女性ってマイノリティーだよな~と実感したりします。

 『桐生先生は恋愛がわからない。』の主人公桐生ふたば(32)もマイノリティーとしての生き方に苦悩する女性です。彼女は、恋愛に全く興味をもてない(自己分析ではAセクシャルかノンセクシャル)ことで疎外感を感じており、しかも、職業 漫画家なため、恋愛要素がかけないと悩んでいます。そんな折、全くタイプの違う2人の男性からいいよられ、恋愛を理解するために2人の恋心に向き合ってみるという話です。

 これ、あらすじだけ見ると、よくあるイケメン二人に言い寄られて困りながらもいちゃいちゃラブラブしちゃうテンプレ三角関係ものね!って感じしちゃうんですが、そういう魅力を持たせつつも、ふたばのマイノリティー視点からの恋愛考察やマジョリティーに対する疑問というのが常に物語の俎上にあって、そこから実験的な取り組みが行われていくところがこの物語の魅力です。わりと漫画で、特に少女漫画では恋愛感情がわからないっていうヒロイン自体は多い気がするんですよね。あと、男性陣でも女性と恋愛関係にはなるけど恋愛感情は持ったことない、とか。最近別冊マーガレットで始まったバイバイリバティーのヒロインもそのタイプだし、『ガラスの仮面』の速水さんとかもそうだし。でも、たいていの場合、それって単にそのキャラが初恋未経験であるとか、単純に今まで出会った人が恋愛対象になりうる人じゃなかった場合が多いんですよね。で、男性キャラの場合はヒロインに出会うことで初めて恋を知る。女性キャラの場合は、初めての恋は咬ませ犬でそばにいてくれたヒーローとくっつくってことも多い気がしますが、いずれにせよ、運命の相手に出会うことで本当の恋が始まるって文脈なんですよね。

 が、このヒロインふたばは本当に恋愛感情が理解できず、自分のことをAセクシャルかノンセクシャルではないかと自分で疑っている。そして、世の中の多くの人が理解する感情を理解できない自分、というところに大きな疎外感を感じています。担当編集さんに「女性は恋愛好きでしょ!」と言われると、「それはイメージの押し付け」と言い返し、TVで恋愛をしていない女性が非リア充として扱われると激怒する。それは恋愛ができない自分に引け目を感じているからでもあります。また、作家として、マジョリティーが求める恋愛要素を理解できないまま描かなくてはいけない現実もあり、そこに今の自分の限界も感じている。そんなときに降ってわいた二人の男性からの求愛に、恋愛感情とはなにかを突き詰めて観察したい思いから、今まで避けていた恋愛関係に突入していきます。つまり、この物語は「主人公が運命の恋に出会う話」ではなく、「主人公がマイノリティーとして生きていくために、マジョリティーを理解しようとする話」なんですね。古典的な三角関係でありながらもすごく現代に沿ったテーマを描いてると思います。初めて逃げ恥を読んだ時も、これはすごい!新しい!と思いましたが、この「桐生先生は恋愛がわからない。」もすごい。新しい。15年ぐらい前に「きみはペット」を読んだ時もこれはすごいと思いましたが、ほんと、これもすごいよ!

 

 

 

 ふたばが描く漫画の魅力は「社会からの疎外感」と作中で言われていましたが、これ、そのまま「桐生先生は恋愛がわからない。」にも言えることだと思います。ちょっと前、TVで宇多田ヒカルさんがインタビューで言ってたことを思い出しました。「どの面においても"アウトサイダー"っていう風には自分で思いました」、「だからこそ書けるものがあるんじゃないかな。疎外感は誰でも感じるし、そこを表現できるなら、誰でも理解できるところに食い込んでいけるんじゃないかっていう自信はあります」

 私もふたばほど強くはないけども、自分がマイノリティーであると感じる瞬間はある。たぶん、全ての面で自分がマジョリティーって人ってほとんどいないですよね。だからこそ、この漫画は多くの人の心に届き、裏サンデーでも人気作なんだと思います。ふたばは理屈っぽいと作中で言われていますが、よく立場の入れ替えによる説明や調査に基づいた反論などしています。無理キスされたことに対して、男性にその怖さをわかってもらうために、「自分よりもっと大きい男にいきなりキスされることを想像して」という説明にはなるほど!と思わされました。理屈っぽいのかもしれませんが、こうやって想像力や言葉を尽くして初めて伝わるものもあると思います。

 あと、この話全体を通じてすごくいいなと思うのが、主人公ふたばがいわゆる普通じゃない方法で問題に向き合ってく姿勢です。普通、恋愛を観察するために恋愛しないじゃないですか?普通にできないから苦労してんだろってあるとしても、そこで終わらせず他と違っても自分なりに方法を考えて実行していくって大切なことだと思います。今日より明日を良くするためにもがく勇気や工夫みたいなものをもらえる気がします。あと、ぼっちが目指すべきはロビンソン・クルーソーってのは笑っちゃいました。 

 

でもさ、これフラワーコミックスレーベルでほんとにいいの?