It's a rumor in St. Petersburg

アラサー学生です。主にまんがの感想を書こうと思っています。

【感想】『天は赤い河のほとり』~ロマンチックの極致

2018年、宝塚で『天は赤い河のほとり』(以下、『天河』)が上演されましたね。
宝塚にちょっと興味があったのと『天河』が非常に好きなのとで観に行ってきました。
テーマソングが耳に残るかっこよさだったこともあり、毎日You Tubeの『天河』のCM(?)観てます。
DVDも買っちゃいました。

 

 


宙組公演『天(そら)は赤い河のほとり』『シトラスの風-Sunrise-』初日舞台映像(ロング)

 

 

 

改めて観ると本当に、天河最高!って気持ちが蘇ります。
私が『天河』を初めて読んだのは10歳の時だったので、ちょっと刺激的な話でしたが、コミックスが待ちきれず、すぐに少女コミックを毎号買って追いかけるようになりました。
私が少女漫画を好きになるきっかけとなった物語なので思い入れが深いです。
何年かに一度、何かのきっかけで読み返しては、『天河』最高!って気持ちになるんですが、宝塚を観て以来、またそういう気持ちになってます。
なにがこんなに最高なのか…
『天河』はなぜこんなに私の心をつかんで離さないのか。
それはきっとこの物語がロマンチックの極致だからです。

 

www.anastasia1997.tokyo

 

  登場人物のかっこよさ

『天河』のよさって、キャラクターがみんなかっこいいんですよ。
場面場面で本当にきめる。
登場人物たちがかっこいいってのは本当に大事だと思います。
私が好きなセリフを一人ひとつづあげていこうと思います。

ユーリ

「あなたの手に、オリエントの覇権を!!」
天は赤い河のほとり12巻より

やっかみのモブたちにけなされまくっていますが、客観的に考えると彼女のスペックは超高いですよね。

・モブ兵士数人を一人でやっつける戦闘能力
・天下分け目の決戦でエジプト軍を包囲する指揮能力
・烏合の衆を反乱軍に作り上げるマネジメント能力
・戦争の講和会議を仕切るプレゼン・段取り能力
・製鉄法保有
・着飾ると超美人
・宴の余興も完璧
・健康(伝染病にかからない)
・体力(2~3日背中に矢をはやしても平気、ライオンを丸腰で抑え込む)
・ド根性
・人望ありまくり(後見は民衆)

電通とか入ったらめっちゃ出世するのではないですか?
一見普通の女の子に見せて、強く賢く美しく、重要な場面では必ず決めてくれるユーリのかっこよさだけで、この話はおもしろい。

冒頭であげたセリフは12巻でユーリとカイルの別れのシーンのセリフです。
オリエントの覇権を左右する力を持ってる17歳ですよ。
もう二度と会えない最愛の人のために、その力を捧げるという姿が本当に切ない。

8巻の誰が花婿一行を襲ったのか?の王妃との論争もユーリが最高にかっこいいシーンの一つだと思います。
カメラもない、科学技術による鑑定もない、目撃者が自分しかおらず誰にも信じてもらえない中、ユーリは言い逃れできない証拠を王妃に見せつけます。
そのために彼女は死線をさまよう苦しみを味わうことになるのですが、その強い意志(ド根性)で王妃を追い詰めます。
かっこよさの大事さを教えてくれるヒロインですね。

ちなみに私がハットゥサの遺跡を聖地巡礼した時に買ったガイドブックによると、シュッピルリウマ1世がエジプトの要請に応えて皇子を送ったのは史実のようです。
また、ムルシリ2世はバビロニア出身の義母に悩まされ、愛する王妃に先立たれたのは義母に呪い殺されたと信じていたそうです。
『天河』、古代の物語なのにかなり実際の出来事に沿って物語が作られています。


  

 

 

 

カイル

「ハットゥサきってのプレイボーイの面目にかけて、まだお前に手を出していないなんて皆に知られたくない」
天は赤い河のほとり1巻より

カイルは少女漫画の主人公の王道ですね。
なんてったって皇子です。
セリフは1巻からです。
この頃は割と軽いことをばんばんいうカイル皇子。
後半になると立場も重くなり、ユーリしか見えない溺愛ぶりで、まじで重い。
その重たさは別の意味でまたいいんですが、 軽くてセクシーでちょっといじわるなところがあったりもして、私は前半の軽めの頃のカイル皇子が割と好きです。

ただ、23巻の「おまえの身体にはわたしの知らないクセはついていない。わたしが教えたとおりに反応する」発言はいかがなものでしょうか。
あれは篠原先生の本来の創作によるものなのか、それともエロ本化をひた走っていた少女コミック編集部の意向によるものなのか…

 

ラムセス

「おれはあんたを『妻』にしたい。おれの気持ちを形にすればそういうことだと思ってもらおう」
天は赤い河のほとり20巻より

カイルの最強のライバル、ラムセス。
カイルとはユーリをめぐるライバルでもあり、エジプトの軍事的な指導者として国をめぐるライバルでもあります。
カイルがキングなら、ラムセスはジェネラル。
野性味あふれるイケイケな男です。
皇子様もいいけど、こういう男もいいよね〜。
ラムセスは基本的には結構ドライなところがある感じのキャラです。
初対面で瀕死のユーリを見捨てますし、カイルの弟皇子も殺しますし、自分が認めた相手以外はどうでもいいといった風。
娼婦に出会えば「二人まとめて相手してやる」と少女漫画のライバルにあるまじき、3P上等発言です。

そんな彼はユーリとカイルにはなんだかんだと甘い&真面目。
この、本命だけには違う、ってのが非常にセクシーなんですよね。
ラムセスはカイルのように甘く愛をささやくことはありません。
ユーリに対するアプローチは常に「政治的に必要だ」というメッセージばかりで、ユーリ自身については「あんた自身のことは気に入ってる」としか言わない。
でも、彼は行動で気持ちを語る男なんですよ。
20巻から始まるエジプト編でのかっこよさはこの物語の中でも抜群にかっこいい。
自分の不利になるにも関わらず、王太后を敵に回し、命がけでユーリを守ります。。
他の男を愛している女性を振り向かせるために(一見そうは見えないけれど)ひたむきな愛を捧げる姿。
これがロマンチックだと思わされます。

ラムセスはユーリの心が自分のものであったら、カイルみたいに甘い言葉もたくさん言ってくれると思うんですよ。
本当は言いたいし、自分の手でユーリを甘やかしたいんだと思う。
でも、ユーリの気持ちが自分にないことが分かっているから言えないんですよ。
チョイスしたセリフはストレートに愛しているといえないラムセルの最大級の愛の言葉だと思います。

去り際もかっこいいのですが、ラムセスびいきの私としてはユーリとラブラブしているラムセスもみてみたかった…

  

 

 

ザナンザ皇子

「王妃を愛して幸福にするよ。そしてわたし自身、王妃と民から愛されて幸福になれるよう努力する」
天は赤い河のほとり7巻より

さんざんラムセスびいきといいながら、実は私が一番好きなのはザナンザ皇子です。
カイル皇子を差し置いて実は彼こそNo,1プリンスキャラではないでしょうか。
ザナンザ王子は強く賢く美しく、しかし生母の身分が低いため皇統をつぐ立場にはありません。
その分、ちょっとカイルより甘えた感じかあります。
そこがかわいい。
あの当時、実はまだ10代なのかな?
ユーリよりちょっと年上なくらいなんでしょうか。
ユーリを愛しながらも、なによりも大切な兄のため、自らの使命に結果として殉じていく姿は本当にけなげ。
その婚礼へ向かう旅の中でユーリに言うのがチョイスしたセリフです。
平和なオリエントを作るため、けれど決して政略のためだけでなく自分も含めたみんなを幸せにすること道を選ぶザナンザ王子。
この素直さ・明るさは皇子という貴い身分と母と兄に愛されて育ったからこそもてる気質なのかなと思います。

ラムセスと甲乙つけがたいのですが、私はけなげさに弱いので、押しキャラNo,1はザナンザ王子に軍配があがります。
2018年に番外編が公開されましたが、その主役もザナンザ王子でしたね。砂漠へ消えていった皇子の愛。
あのタブレットはどこへ消えていったのか。
人が死んでしまうと、その想いはどこへ消えていってしまうのかな。
宝塚では桜木みなとさんが演じられていましたが、あの儚げな美しさはザナンザ王子にぴったりだと思いました。

 ちなみに番外編は『夢の雫、黄金の鳥籠』の11巻に収録されています。(あと2~3作描いていただいて天河29巻出していただいてもいいと思うのですが…)

 

 

ルサファ

「ユーリさま、あなたはやはりわかっていらっしゃらない。あれだけでわたしはどんな業火の中でも荒れくるう大海でも喜んで渡ってゆける…!!」
天は赤い河のほとり20巻より

近衛隊副隊長ルサファ。
彼は影に陽にユーリに付き従うナイトですね。
キングとプリンスとジェネラルときて、ナイトも登場です。
彼にとってはユーリは想い人であると同時に永遠の憧れであり女神です。

ルサファはラムセスの妹ネフェルトに想いを寄せられ、ちょっとずつ心を開いていくかに見えます。
ルサファのちょっとした一言に一喜一憂するネフェルトがかわいい。
連載当時は少女コミックの扉絵でルサファとネフェルトが家庭を築いている絵があったりして、お似合いじゃん!と思っていたので、この恋の結末は悲しかったです。

ハディ

「わたしたちをお疑いなら死ねとお命じください。この場で胸を刺しつらぬいてごらんにいれます」
天は赤い河のほとり10巻より

ユーリの側近のハディ。
ユーリに対して誰よりも厚い忠誠心を持っています。
妹を守る姉のように、どんなときでもユーリの側にいて助けてくれる人。
皇帝暗殺事件の際、カイルに忠誠心を問われたときの返答は見事でした。
また、ユーリがカイルに強引に迫られたときも、自らを顧みず助けに入ってくれます。
家族を失ったユーリに肉親のような愛情をくれたのはこのハディだなと思います。

  重要シーンを彩る印象的な背景

これも大事なファクターだと思います。
ここぞというシーンでは、アナトリア大自然の中やハットゥサの美しい建造物などの壮大な背景が描かれています。
これらが重要なシーンをさらに盛り上げ、古代の神秘的な雰囲気や物語の深みを作り上げていると思います。

私の好きなシーンは4巻でユーリがキッズワトナ急襲を知らせるため、アナトリアの満点の星空の下、馬をかけるシーンです。
3巻でティトを天に送る夜明けのシーンも美しいですね。
歴史の悠久さを感じさせるラストシーンの乾いた風が行くハットゥサの遺跡のシーンも好きです。

f:id:anastasia1997:20200112092216p:plain

天空の都、ハットゥサの遺跡

一番思い入れが深いのはやはり11巻皇帝暗殺犯処刑のシーンかな。
日没の空の下、無実の罪で死んでいくウルスラ
カッシュと二人逃げることもできる中、ヒッタイトのために、ユーリのためにウルスラは死を選びます。
なによりもウルスラを大事に思いながらウルスラを尊重するがゆえに、その場を見守るカッシュ。
その残酷な場面を美しい夕日が彩ります。
そして、まったく違う場所にいるユーリも同じ夕日を見上げている。
初めて読んだ10歳の日、このシーンで号泣しましたのをよく覚えています。

 

ロマンティックという言葉の意味はgoo国語辞書によると「現実を離れ、情緒的で甘美なさま。」とあります。
たぐいまれな能力を持つ男性たちからひたむきな愛を捧げられる主人公。
彼女もまた「砂漠の中の砂金粒」と評される能力者。
美しい歴史と背景の中、彼らの紡ぐ物語はロマンチックの極致だなあと思う次第です。

 

 篠原千絵先生 関連エントリ

www.anastasia1997.tokyo