It's a rumor in St. Petersburg

アラサー学生です。主にまんがの感想を書こうと思っています。

【感想】『メアリーの総て』

 

 

 

 ミステリーボニータの懸賞で2018/12/15公開の映画「メアリーの総て」の試写会が当たったので観に行ってきました。主演はエル・ファニングです。観て良かったなと思える映画だったので感想を書きます。

 

あらすじ

 舞台は1800年代初頭のイギリス。主人公メアリーは16歳で、有名作家で本屋も営む父と継母、義理の妹と一緒に暮らしていますが、家庭に息苦しさを感じ、父の友人のもとへ預けられます。そこで、有名詩人パーシーと出会い、2人は惹かれ合いますが、パーシーには妻子がいます。若い2人は情熱のままに駆け落ちし一緒に暮らし出しますが、2人に待っていたのは借金の取り立て、子供の死といった厳しい現実。彼女はその悲しみを糧に、後に文学史に残る名作「フランケンシュタイン」を執筆するのでした。

 

gaga.ne.jp

 

 試写会後、登場人物についてウィキペディアで調べてみたところ、メアリー・シェリーはもちろん、彼女のお父さんもウィキペディアに個別のページがあるような有名作家のようです。

 

ウィリアム・ゴドウィン - Wikipedia

 

 

 

 

 家庭の文化水準が高く、彼女自身ラテン語が使えるなどかなり教養のある女性ということなんでしょうね。お父さんの最も有名な著作は「政治的正義」というタイトルだそうですから、今で言うところのオピニオンリーダーとか論客的な人だったのかなあ。(勝手な想像です) メアリーと駆け落ちした詩人パーシーは裕福な貴族の長男のようです。また、後々2人に大きな影響を与えるバイロンは有名な詩人ですよね。有名な論客の娘と若き天才作家が駆け落ちして、詩才もあるパリピ金持ちと繋がっちゃってパートナーは酒に溺れたり、妹は遊ばれて捨てられたりして、現実に絶望した結果才能が爆発し名作が誕生するという感じです。瀬戸内寂聴のようです。

感想

選択と責任

 この物語のテーマだと思います。「選択と責任」というキーワードが物語の中で繰り返しでてきます。

 主人公メアリーは情熱のままに駆け落ちするも、その先で破産や子供の死など辛い現実を突きつけられ続けます。次から次へと悲しみや苦悩が襲ってきて、作中でほとんど笑顔を見せず、10代後半なのに老成した雰囲気です。でも、彼女にとってそれは自分の選択の結果であり、彼女はその結果や責任は自分で引き受けるという強さを持っている人なのです。

 共に過ごすパートナー・パーシーは妻子を捨てた結果、妻が自殺、その罪悪感に苛まれ酒浸りになったりします。また、お金もないのに豪遊し、借金取りに追われて、それがきっかけで子供を失います。でも、彼にとってはそれはしかたのないこと。

 共に暮らす義理の妹はバイロンに近づき、妊娠するも単に遊ばれていただけということがわかり、ボロボロに傷つきます。バイロンからすれば、それは「若い女に付きまとわれたから男としてはしかたない」こと。

 周りがどんなことも「しかたない」と言って済ます中、「しかたなくなんかない。それは自分が選択したこと。そして選択には結果と責任が伴う」と反論するメアリーの強さは憧れてしまいました。特にバイロンに対して反論した際、「There is always another choice」と言っていたのかな?すごくカッコよかったですね。

 彼女にとってのanother choiceは苦しみから目を背けず、それを物語に昇華することだったのかなと思います。さまざまな苦しい現実のなか、夢や美しさを追い求めるパーシーの横で、現実と絶望をみつめ、その先にあったものが物語「フランケンシュタイン」だったのだと思います。

踏みにじられる尊厳

 彼女は若い女性であるがゆえに自分が作り上げた物語を自分の名前で出版できません。ただ、これはこの映画ではジェンダーというよりかは、当時弱い立場に置かれていたり、愚かだと考えられていたりした人たちとしての若い女性ということなのかなと思います。絶望の果てに書き上げた物語を、パートナーが書いたのではと疑われることがどれだけ悔しいことかと思います。でも、それの悔しさは強い立場にいるパーシーには伝わらないんですよね。

 完全にネタバレになってしまいますが、ラストの出版記念パーティーのシーンは涙が出てしまいました。若い女性という立場ゆえに名前も作品も軽んじられる中、彼女の父とパートナーであるパーシーが彼女の名誉のために会を開くというのが美しいと思いました。彼女のanother choiceをパーシーも受け止めて選択したということなのだと思います。透き通るような音楽も美しかったです。

憎めない弱い人たち

 パーシーも妹もどうしようもないな、自業自得と思わざるをえないんですが、でも二人とも弱いだけで悪い人ではないんですよね。

 パーシーって弱さゆえに結果的にメアリーを傷つけてしまうけど、メアリーを傷つけてやろうとかそういう気持ちはなくて、基本的にはメアリーが大好きないい人なんですよね。元妻を捨てた結果、罪悪感に苛まれて酒浸りになったりするところも、酷すぎるけど、良心がない人ではない。ラストも作品を通じてメアリーを理解しようと努力したんだなということが伝わりました。

 メアリーは苦しいことばかりの人生の中で、こういうわずかな希望があるから生きていけるのだろうな。フランケンシュタインに希望がないとパーシーは言っていましたが、この映画の中では最後に希望が示されていたと思います。

 あ、バイロンは人を踏みにじってもなんとも思っていない悪人なんですけど、悪人なりに苦悩して振り切ってるからなんかやっぱ憎めないですね。

まとめ

 観る前は、ちょっと難しい映画かな?と思っていましたが、非常に面白く観ることができました。友人と2人で観に行ったのですが、試写会後感想談義に花が咲きました。ちなみ監督のハイファ・アル=マンスール氏はサウジアラビア初の女性監督だそうです。余談ですが2017年末にギリシャに行ったら、ポセイドン神殿にバイロンの名前が刻んでありました。

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