ついに2018年1月、全11巻で完結です。
Koboで予約して、日付変わってすぐにダウンロードしました。
「天空の玉座」最終巻、本日発売です!☆*.+°
— 青木朋 (@aokitomo_zZ) 2019年1月16日
6年間の連載のあいだ、ご声援ありがとうございました!!
表紙は、礼服を着た珊瑚です。
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朝焼けか、夕焼けか、美しい空の下で成長した珊瑚の姿。きれいです。取ろうとしている手はお兄さんでしょうか。
先週末に10巻までを読み返していたので、ほとんど一気に全巻読んで、このお話のメッセージはなんだったのだろうか?ということを考えています。ミステリーボニータで読んだ時はお兄さんのラストシーンで頭がいっぱいになっちゃってたんですけども、全編通して読むと少し印象が違うんですよね。この物語は人間らしさを否定された世界でこそ強くあぶり出される、人の生き方や考え方が描かれている物語なのかなと思いました。
蓬莱はなにと戦ってきたか
ずーっと宦官同士で戦ったり、官僚と戦ったり、女官を陥れたり、いろいろしてたわけですが、彼が本当に戦っていたのは周りの人間や娘娘ではなかったんだろうなと思いました。
宦官というのは、朝廷の家臣と違って、皇家の奴隷なんだそうです。作中でも、気持ち悪いとか異形とかあからさまな言葉で蔑まれていることを示唆されています。モブっぽい役人が、明らかにネガティブなイメージで「宦官の国」と言ったりもしています。さらに、蓬莱の目からみた彼の一族は「宦官になるくらいなら死を選べ」、「姫家の恥」というような一族でもあったわけです。蓬莱自身もその姫家の一員であることに誇りを持っていました。彼は、宦官になったときから、社会からも、家族からも、過去の自分からも拒絶される存在になってしまったのだと思います。
蓬莱が戦っていたのは、宦官を認めない社会や宦官であることを認められない自分自身だったんじゃないでしょうか。大臣や将軍や、かつて憧れていたものになれなかったとしても、鳳釵を裏切っても、宦官として生きていくために、社会の偏見や自分自身の心とずっと戦っていたのではないかなと思いました。
2人の宦官:蓬莱と佐明
蓬莱と佐明、どちらも「すべてを失った子供」だったけれど、対極な二人だったんだと思います。
佐明は貧しい家に生まれ、家族を失い、宦官になるしか生きていく道がなかった人です。けれど、そこで尊敬する師に出会い、病已に出会い、「宦官になってよかった」といえる人生を生きることができました。
一方、蓬莱は罪人の子として宦官にされ、瑶池に出会って皇后づきの宦官となり立身出世を遂げていきます。けれど、宦官になってよかったとはきっと最後まで言えなかったんじゃないでしょうか。
ただ、じゃあ、佐明の方が正しいのか、いい生き方なのかと言うとそれもちょっと違うように思います。佐明は幸せだったかもしれないけれど、結局、最後に病已の心に大きな傷を与えます。もし宦官にならなくてすむ他の選択肢があったなら、別の幸せがあったのではないかという示唆もありました。(ここで佐明の妻としてイメージされているのが、妓楼のお姐さんなのがまた泣けます)佐明も蓬莱も、結局、宦官というシステムの中で命を落としたことが、最後の病已の選択につながっていくのだと思います。
宦官制度を廃止することの意味
物語の中の宦官制度は実は悪いことばかりが描かれているわけではなかったと思います。水害の後、宦官にならなければ佐明は死んでいたし、佐明の師父の宦官だからこそ、人のために生きることができるという教えは 厳しくも美しい考え方に思えます。瑶池だって、宦官にならなければ家族を支えていくことはできなかったですし。ある種の救済制度でもあったんだと思う。
それでも、宦官制度を廃止する、という病已の決断は実は蓬莱の考えに近いのかなと思います。皇帝のために死ぬ、そんな考えは馬鹿らしいという蓬莱の考え、佐明が犬死といわれたら言い返したくなる珊瑚の気持ちもわかりますが、この考え方自体は否定できないと思う。2019年的には#Metooな感じです。というか、病已こそ誰よりもそう思ってしまったんだと思う。犬死とは言わなくても、自らが知らないうちに皇族という立場で佐明を使役していたこと、自分に忠義を尽くしたからこそ、佐明は死んでしまったと、それに気づいてしまった。
宦官制度を廃止するということは、宦官の道を選ばざるを得ないような苦しみから、国民を救い出すこと、そして宦官という制度のひずみから命を落とすような人がもうでないようにするということ、それが病已の皇帝としての所信表明なのかな思います。
宮廷の奥に透けるもの
まあ現代の日本って、さすがに徳王朝の宮廷ほど苛烈ではないんですけども。それでも、蓬莱の気持ちに共感してしまう人もけっこういるんじゃないでしょうか。蓬莱の苦しみって、マジョリティーの考えに押しつぶされそうになるマイノリティーの苦しみに通じるものがあると思う。病已や麗ケイさんの苦しみも組織に押しつぶされる個人の苦しみにも通じています。
特に病已の苦しみってすごくリアルだと思います。やっぱりものすごく辛いことがあると、そんなに簡単には立ち直れないですよね。自分に自信が持てなくなって、なにかができるなんて思えなくなる。それでも、一歩踏み出した彼に勇気がもらえると思います。
その他思ったこと
瑶池
クズって何回も言われてますが、本当にクズですよね。ただ、やはり、宦官になる道を選んだというのは並大抵の人ではない想いがあったのだと思います。蓬莱に追い詰められたときの態度は、姫家の蓬莱に対する態度と対極ですよね。蓬莱としては失脚させることもできたんだろうけど、協力させる側に引き込んだのはその想いにうたれた部分も少しはあったんじゃないでしょうか。
桃君と員君
私は桃君が好きなんですよね〜。スピンオフで桃君の華麗なる1日とか読みたいです。さておき、クーデターにも東廠の人たちはついてきてくれました。佐名には散々言われちゃってましたが、東廠の人たちは蓬莱に命を預けてくれてたんだと思います。この人たちも特権に浸りながらも、宦官として蔑まれ、宦官の地位向上のために戦う蓬莱は彼らの希望だったんじゃないでしょうか。
蓬莱が足元をすくわれたもの
最終話の展開で、蓬莱を刺したものがすごいと思うんですよ。全部、今まで蓬莱が侮ったり踏みつけたりしてきたものじゃないですか。
・皇后の小説
私は、麗ケイ(変換が出てきませんでした)さんが本当に好きなんですよ…。お兄さんも大好きなんだけど、これはほんとによくやった!と喝采したい。選秀女編での公開処刑で鼻で笑った麗ケイさんの小説にここに来て満塁ホームラン。麗ケイさんはもともとあなたに憧れていたんだよ…。
・地位の低い役人
娘娘廟建立ではこき使いまくった工部の役人。蓬莱からすれば名前も覚えてるか微妙ですよね。
・後宮の妃たち
特に寿林さん。
・力のない皇帝
蓬莱が馬鹿にしていた最たるもの、それが「棚ボタの子供」病已だったと思います。その病已が蓬莱の計画を打ち破る。最初のクーデターとは逆の結末。
蓬莱が踏みつけた人たちであり、宮廷で苦しんできた人たちであり。
まとまりのない内容になってしまいましたが、本当におもしろい作品でした。病已が佐明を想うシーンや蓬莱が珊瑚を抱いて逃げるシーンはやっぱり何度読んでも泣いてしまいます。あと、アルタンと珊瑚のその後が読みたい!草原編が読みたい!
※※2020/2/1追記
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