「時よ…
この街の上だけはわけてもゆっくりと祝福をこめてとおりすぎるがいい
さらば…...
我が心のレーゲンスブルク...!!」
『オルフェウスの窓』7巻より
『オルフェウスの窓』は20世紀初頭のヨーロッパを舞台にした3人の青年の数奇な人生の物語です。始まりの舞台はドイツ・レーゲンスブルク。この街には古い音楽学校があり、そこで出会った3人はかけがえのない青春の時を過ごします。しかし、時代のうねりは彼らに長く少年の時を許すことなく、舞台は第一次大戦へと向かうオーストリアへ、ロシア革命前夜のロシアへと移っていきます。歴史や国家というものの前で中でなすすべもない個の人生、失いながらそれでも生き続けていく苦しみ。けれどその中で人の営みが生み出すわずかな喜び、愛情、希望。3人の数奇な人生を通じて国家や革命というものを重厚に描いた名作です。初めてこの作品を読んだ14歳の時からいつか物語の舞台となったレーゲンスブルクへ行ってみたいと思ってきました。そして今回やっとその機会を得ることができました。この街には物語に登場するたくさんのものが実際に残っています。
聖ゼバスチアン - トゥルン・ウント・タクシス城
聖ゼバスチアンの校舎のモデルとなったお城です。レーゲンスブルクには音楽学校が実際にあるのですが、校舎の造形はこちらのお城がモデルとなっています。このお城には現在でも実際に侯爵が住んでおり、内部の見学や写真撮影は制限されています。フォン・ベーリンガー伯夫人はトゥルン・ウント・タクシス侯爵家の令嬢という設定でした。
まさにオルフェウスの窓のモデルとなったパート(と思われる場所)はお城を取り巻く公園から覗き見ることができます。少し違うところもあるけどけどそれっぽい!
ラストシーンでイザークとダーヴィドが歩いている並木道もこの公園の道がモデルだと思います。
作中ではよく柵からオルフェウスの窓を仰ぎ見るシーンがありますが、実際はこんな感じ。
木が鬱蒼と茂ってるので普通の人はわざわざ柵までいったりしないと思われます。木に覆い隠されてオルフェウスの窓がある塔も外部からはよく見えません。私もなかなかこのポイントが見つけられず、何往復かしました。
大聖堂
レーゲンスブルクのシンボルである尖塔を持つ大聖堂。作品では直接ここで何かしたという描写はありませんが、ユリウスやイザークがレーゲンスブルクを思い出すとき、必ずこの聖堂の姿が描かれています。また、「聖ぺテルス」の鐘の音とはこの大聖堂の鐘の音のこと。彼らにとってレーゲンスブルクの象徴ともいえる場所です。
日曜日の10:00からはミサがあり、観光客も参加できます。パイプオルガンに彩られたミサはドラマチックで荘厳です。また、聖歌隊の賛美歌は鳥肌が立つほどの美しさでした。私が行った時は少年合唱団じゃなさそうな人たちが歌ってましたが、本来はレーゲンスブルク少年合唱団というものがあるそうです。ユリウスが1巻でソプラノをやるように言われている聖歌隊ってたぶんこれかな?2017年に結構な問題が起こっていた模様…
ちなみに大聖堂の守護聖人は聖ペテロ(St. Peter)で後にクラウスとユリウスが共に暮らすセントペテルスブルク(St. Petersburg)の守護聖人と同じ人です。
音楽学校
聖ゼバスチアンのモデルとなった思われる音楽学校。シンプルな校舎です。それで、池田先生もトゥルン・ウント・タクシス城の方を聖ゼバスチアンの造形モデルにしたのでしょうか。ドナウ川を挟んで大聖堂の向かいの地区にあります。
ユリウスやイザークもこんな景色を毎日見ていたんでしょうか?
ヴァルハラ
カーニバルで刺客に襲われたクラウスとユリウスが逃げ込んだ先です。2人が逃げ込んだ地下は観光客は入れません。
ドイツの偉人たちの胸像がたくさん置いてあるのですが、像によって明らかに出来の差があります。
ケプラー記念堂
イザークが レーゲンスブルク管弦楽団とピアノコンチェルトを演奏した場所。本当はオペラ座での演奏予定でしたが、キッペンベルク商会の妨害により急遽野外コンサートへ変更。実際は堂の中には像があるのでグランドピアノを置くことは難しいです。でも晴れた秋の日にここでコンサートができたらすごく気持ちいい場所でしょうね。
ホテル・マクシミリアン
ベルンハルト・ショルツ先生が泊まっていたホテル。レーゲンスブルク駅近くのいい場所にあります。第4部でダーヴィドが泊まっているのもここ。池田先生もここに滞在していたのかも。
レーゲンスブルク中央駅
ショルツ先生を追いかけるために一瞬でてくるレーゲンスブルク駅。現在の姿は作品に出てくる姿とちょっと違います。
レーゲン川
ヴィルクリヒ先生が寒中水泳を仕損なった川。代わりにクラウスの同士が浮かびました。レーゲン川はドナウ川の支流でかなり水量があり、レーゲンスブルクは10月初旬でダウンが必要なほど寒いです。秋冬にここで泳いだら生きてはいられない。
レーゲンスブルクには3泊しましたが、10月初頭というのに最低気温1度で超絶寒く、フリデリーケの病がどうしてよくならないのかよく分かりました。あんなところで野外に立ち尽くしていたらそら死ぬよ…
レーゲンスブルク寒すぎる。自分をイザーク・ゴットヒルフ・ヴァイスハイトだと思わないと乗り越えられない。 pic.twitter.com/E2hmDmG95k
— haveyouheard1997 (@anastasia1997_1) October 3, 2019
けれど、観光客で賑わっているにもかかわらず静かで美しく、ドナウの流れによる恵みと大聖堂の威容に満ちた街です。日曜日には荘厳なミサがあり、聖歌隊や音楽学校の生徒たちが街を行きかい、夜は暗く、向かいのアパートの灯りがやけに明るく見えたりします。そして、静かな夜に響く鐘の音。こういう街に滞在していたら、漫画家さんであれば『オルフェウスの窓』みたいな作品が描きたくなるのかも。作品に流れる重厚な空気感が漂う街です。『オルフェウスの窓』ファンならずともぜひ一度訪ねてほしい街だな〜などと思うのでした。
聖地巡礼からちょっと外れますが、旅行中のあれやこれややおすすめなど