『7SEEDS』の灰の章について考察のような、感想のようなものを書きます。
灰の章について
『7SEEDS』9巻途中~12巻途中まで展開されるシェルター龍宮の・ストーリーです。
春・冬のチームと秋のチームがシェルター・龍宮の跡地に入り込み、Xデイの後、龍宮で起きたことが明らかになります。
この章に登場する人物たちにはプロフェッショナルというものに対する矜持が貫かれており、使命に殉じていく様に胸をうたれます。
私は夏Aのエピソードである、穀雨の章と並ぶ名エピソードだと思っています。
また、新巻さんが甲子園を訪れるエピソードにはいつも泣いてしまいます。
章のタイトル『灰』
これは甲子園や神戸周辺が火山灰で埋まっているからというのと、善悪がつけられないというでの意味の灰色・グレーかなと理解しています。
サブタイトル
灰の章は、サブタイトルについては全体を通しては統一したテーマがない章です。
(私が知らないだけかも… もし、あったら教えてください)
部分的に、花たちが龍宮へ向かって行き、マークの日記を発見して読む回のタイトルは有名な小説・戯曲からとられています。
その中で、気になったものをあげてみます。
4話 夏への扉
アメリカの作家ロバート・A・ハインラインのSF小説。
人工冬眠による時間旅行がテーマの物語。
マークたちの物語が歳月を経てよみがえる事と掛けているのだと思います。
5話 狭き門
フランスのアンドレ・ジッドによる小説。
この小説のタイトルはさらに新約聖書のマタイ福音書第7章第13節に由来します。
「狭き門」の表すものが、この章のキーとなる考え方とつながっています。
7話 渚にて
イギリスの小説家・ネビル・シュートによる小説。
放射線によって汚染された世界で、自死していく人々が描かれる物語。
ダニXに侵されていく龍宮に重ねているのだとと思います。
最後まで嘘がつけるか
追い詰められていく中で、人は何を求めるのか。
夏Aが生きていくための技術を教え込まれたのに対し、龍宮は最期を迎えるための能力を持ったスタッフが選ばれているのが興味深いです。
貴士は最初から「最後まで嘘がつけるか」と言っており、シェルターの終焉を見据えてスタッフを選定していたのだと思います。
「嘘」と言うのは、プロとして最後まで努力し続けられるか、という事だと思います。
貴士に選ばれたスタッフたちは最後まで自分たちの役割を果たし続け、それぞれ別々の場所で死んでいきます。
最後に一人となったマークが初めて弱音を吐くシーンが好きです。
追い詰められていく中で、本当に最後の最後まで、努力し続けた勇気のある人たちだったと思います。
狭き門
美帆が口にしていた「狭き門」という言葉はサブタイトルの項に書いた通りフランスの小説に由来します。
私は未読なのですが、ウィキペディアによると、ヒロイン・アリサが主人公ジェロームを愛しながらも、信仰のため、地上での幸福を放棄し、ジェロームとの結婚をあきらめてついには命を落とすという物語だそうです。
とてもわかりやすい解説がありました。
「アリサは、「狭き門(神への愛)は、ジェロームと二人で通れるほど広くない」とし、彼女が一貫して苦しむ信仰とジェロームへの愛のどちらを選ぶかを悩む時に登場します。」
美帆が口にしている、「神の国に到る門は狭くて二人並んではなかなか通れない」という言葉は、小説における信仰を美帆の持つ責任と置き換えて理解するべきかと思います。
美帆にはXデイの存在を知ってずっと準備してきた者としての責任があります。
おそらく本人は使命とも感じていたと思います。
一方で、妻として母としての感情があり、貴士と共に最期の時を迎えたいという願いもある。
けれど、彼女はきっとそれは両立できず、自身も貴士も使命に殉じ、それぞれ別々に死んでいく事を予感しています。
実際に二人は別々の時に別々の場所で最期を迎えます。
しかし、貴士は美帆に「狭き門で待っててくれ」と願いながら、ダニXに侵された政治家を道連れに命を断ちます。
これは、使命を全うすることも、最期の時に二人共にあることも同時に成し遂げるという意味だと私は理解しています。
貴士にとって、肉体は別々のところで最期を迎えても、魂が共にあることが狭き門を共に通るという事。
つまり貴士は死を迎えるその瞬間、魂は先に逝った美帆と共にあると考えていたということを表すセリフなのかなと思います。
そして、マリアとマークもプロフェッショナルとしての責任に殉じ、狭き門を行った人達だと思います。
タイトルとなった「狭き門」という小説はかなり評価がわかれる小説だそうです。
小説の作者はヒロインのような自己犠牲的なあり方に対する批判を行っているとウィキペディアに書いてありました。
この章の登場人物たちも自己を殺して使命に殉じていきますが、それに対する懐疑的な考え方も秋のチームや夏Aからあげられています。
そういう意味からも、まさに灰、グレーの章なのだと思います。
ちょっと思ったこと
- 龍宮には浦島太郎と酒呑童子のモチーフが使われています。四面四季の庭以外にもキャラクターの名前は酒呑童子の逸話に関連する人物に由来しています。マリアの名前が神酒というのは、シェルターの結末を暗示していたのだと思います。また、マークの日記から過去の物語が展開するというのは、玉手箱をを開けると歳月が溢れだす浦島太郎を思わせます。龍宮の場所は、京都と大阪の間とありましたが、酒呑童子が住んでいたとされる大枝もそのあたりだそうです。
- ミキマリがマークに心を開いた瞬間、初めて彼女の眼が見えます。十六夜さんのエピソードは最たるものですが、『7SEEDS』では一貫して、眼と眼があうことから人と人の信頼が始まるという描写があると思います。要さん…
- 貴士が扮するイルカのピー助。イルカは海の神ポセイドンの聖獣で神の使いだそうです。
- 苅田が安居を投げ、夏Aにピストルを突きつけられるシーン、最終回で回収される伏線になってますね。
- 「男なんて」と言う流星と「人間なんて」と言うハル。レッテル貼りはいけません。
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安居が十六夜をうった理由については以前、まとめてみました。
シェルター・龍宮のエピソードは10巻から
2020年2月10日まで無料キャンペンーン中です。
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