小暑の章について
小暑の章は16巻から21巻にかけて展開される全23話の大変長い章です。
リアルタイムで連載を追いかけて読んでいた頃はずっと船にいるな…と思っていました。
この章では安居と涼が夏Bと出会い、海上にある8番目のシェルターへ踏み入っていきます。
その過程で、二人は自らの過去と向き合い、トラウマを乗り越えます。
過去から解放され、一人立ち尽くす安居を描いた見開きは『7SEEDS』屈指の名シーンだと思います。
まつりと涼がちょっとずつ近づいていくところや、蝉丸が安居とナツの接近にやきもきしているところも見どころです。
章のタイトル『小暑』
二十四節季の第11番で、現在のカレンダーだと七月上旬ごろです。
暑さが本番となり、蝉が鳴き始めるころです。
七十二候では鷹乃学習という時期でもあり、雛が巣立ちを迎えるころでもあります。
種たちがますます成長し、特に安居と涼が過去のトラウマを乗り越え、精神的に巣立っていくところと重ねているのかなと思います。
サブタイトル
小暑の章では、J-POPのタイトルに由来するサブタイトルがつけられています。
気になったものをあげてみます。
1話 異邦人
久保田早紀さんシングルです。
旅をテーマにした歌詞で、「時間旅行が心の傷を なぜかしら埋めていく ふしぎな道」という歌詞があります。
この章で夏Bと共に旅をする中で、安居と涼の心の傷が癒えていく様を暗示しているように思います。
8話 空と君のあいだに
中島みゆきさんの1994年のシングルです。
これ聴きながら8話読んだら泣いてしまうだろーーー!!
歌詞がちょっと涼っぽい… 君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる…
10話 人形の家
同名の有名なJ-POPがありますが、内容的にはイプセンの小説『人形の家』だなと思います。
相手を同等の人間としてみなさず、自分の付属物のように思ってしまっていた安居の性質をさしているんじゃないのかなと思いました。
過去から解放される安居と涼
20巻の嵐との会話の中で、自分の思考を矛盾を指摘され、取り乱す安居。
このシーンは本当にかわいそうでした。
だって、そんなどうでもいいことでみんな死んだのかって。
そんなの認めるわけにはいかないじゃないですか。
しかし、涼の告白で茂は試験のために死んだのではなく、安居を未来に送るために動いて、結果として死んだということに気づく。
後悔は永遠に尽きないでしょうが、安居が再び自分の時間を生きることができるようになって良かったです。
立ち尽くしむせび泣く安居を描いた見開きは、彼の後悔や感謝や罪の意識や、抱えていたいろいろな気持ちが昇華されていく姿を見事に描いた名シーンだと思います。
読者(私)もただただ涙。
涼は涼で安居とは別の意味で過去に囚われています。
涼は非常に頭や要領がいい子なんですよね。
最終試験についても、誰よりも早く気づいて対策をとってきた。
その分、施設でのやり方が誰よりも染みついてしまっている。
施設でうまくやる方法に最適化しすぎて、未来に来てからもその頃の思考が抜けない。
それが、まつりの「いいことも悪いことも紙一重」の言葉で現実と施設の試験との違いに気づき、呪いが解けます。
試験をパスするためなら危ないものには近づかなきゃいいけど、現実ではリスクを負わなきゃなにも手に入らないよね…と思いました。
ちょっと思ったこと
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かんむり座のきらめき:
旅立ちの前に蛍が空を見上げて、かんむり座が妙に目につくと言います。かんむり座の神話を調べたところ、蛍が言う、ある女性はアリアドネ、男性はテセウスです。有名な怪物ミノタウロス退治に協力した王女アリアドネを捨ててテセウスは旅立ちます。悲しむアリアドネを慰めたのが酒の神デュオニソス。二人は結ばれ、デュオニソスがアリアドネに送った冠がかんむり座となります。
置き去りにされたアリアドネは、教師や仲間たちに見捨てられた安居と涼を象徴しているのかなと。彼らが、夏Bと交わる中で、デュオニソスに慰められたアリアドネのように癒されていく物語なのかと思います。
- 安居と涼は過去の罪悪感やトラウマに向き合うことができた。けれど、まだ、自分たちが犯した罪とは向き合っていない…というのが一つのポイントなのかな。
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夏Aが七つの富士について聞かされていないのは、彼らが眠りについた段階では七つの富士の詳細が決まってなかったのだろうなと思いました。
- 蝉丸が「誰が長生きしますか」と蛍に聞きたかったと言っていましたが、この世界での平均寿命はどれくらいなのだろう、とふと思いました。中世ヨーロッパで30歳くらいだったとか。食事や医療のことを考えると、中世以上現代以下で、おそらくあまり長くはないのだろうなと思います。平均寿命35~40歳くらい?新巻さん強靭すぎだよ。
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蛍が安居の運命をみて泣いてしまうシーンが好きです。彼の過去をこんな風に受け止めてくれた人、それまでいなかった…
- 涼が茂について語った「自分の責任で 自分で判断した」。これは『BASARA』と共通するテーマですよね。田村作品の根底には常に、決断というものの重要性が描かれているように思います。
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西に下るサソリ座と上がってくるオリオン座。このモチーフは『BASARA』にもでてきます。オリオンは傲慢の象徴かな。
ともかく20巻を読んでほしいです。本当に素晴らしいので。本当にお願いします。
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