It's a rumor in St. Petersburg

アラサー学生です。主にまんがの感想を書こうと思っています。

【感想】『薔薇王の葬列』最終話 プリンセス2022年2月号

※※感想を書くのに必要な範囲でネタバレがあります。

 

2022年1月発売の月刊プリンセスでついに『薔薇王の葬列』が最終回でした。私のこの情熱はこれからどこへ向かうのだ…

物語の始まりを菅野先生がツイートしていらっしゃいましたが、物語の始まりが薔薇戦争のはじまりで終わりが薔薇戦争終結、それが1話の最初のページと最終話の最初のページでリンクして描かれており、あらためて物語の壮大さを感じました。

 

 

 

 

リチャードの人生の物語

最終話を読んで以来、『薔薇王の葬列』ってどんな物語なのかなと考えていたんですけど、やっぱりリチャードの人生の物語なんですよね… 最終回について、私はわりととんでも予想をしていたんですが、結局誰かが待っているとか迎えに来るとかそういうことではなく、最後にリチャードが向き合うのは自分自身。ほんと、ここが「ああ、なるほどね…」って感じです。(まあ、それはそれとしてアンは生きていると思いますが…)

 

 

死の前に誰かのことを想う、誰かが迎えに来る、そういう終わり方をした人もたくさんいましたが、リチャードが最後に思うのは誰かのことでなく、彼の夢には誰も出てこない。これがリチャードの人生なんだなと。これはすごく孤独といえば孤独なんだけど、荊棘にがんじがらめにされ、誰かの声におびえてきた彼が、誰かありきの自分から解放された象徴で、希望のあるラストだと思います。


以前、菅野先生が「『薔薇王の葬列』ではリチャードと誰かのカップリングを描いていない。一人一人の人生があり、それぞれの人生を描いている」とおっしゃったのが非常に印象的だったのですが、本当にその言葉どおりの最終回だったなと思います。リチャードの夢の中には、薔薇が咲き乱れていて、一人だけど他者の思いを感じている美しいシーンでした。正直、普通に生きていても人と自分の距離みたいなものが痛切に悲しく思えたりもすることもあったりして、そういう意味でこのラストは人が持つ孤独さも含めて描かれていると思うんですが、それを受け入れて人は生きていくし、それを受け入れられないと他者と一緒に生きていくことはできないとも思います。なので、この最終回は人の孤独さみたいなものを含むんだけど、その上になりたつ安寧が描かれていて、切なくも温かいラストだと思います。

 

 

 

人の体と精神の消滅

リチャードの生死は明確に描かれておらず、読者の想像に任される形の終わり方でしたが、まあ、リチャードもリッチモンドもアンもその子供もその子供も本日現在(2022年1月)ではみんな亡くなっているはずなんで、総括してみんな死んでいるという前提で…

 

リチャードの死とともに、彼の秘密は永遠に葬られ、それと同時に彼の人生に起こったたくさんの出来事、その記憶、精神の軌跡も消えていくのであれば、人の一生ってなんなんだろうみたいなことを思ったりしました。リチャードに限らず、登場人物たちそれぞれが抱えてきた苦しみも、人生をかけるほどの愛情や野心も肉体の消滅とともに消滅していくのだろうか。(キリスト教徒だから復活信じてるかもしれませんが)

 

結局、王子のリチャードへの想いは最終回までリチャードに伝わることもなく、王子の肉体が滅びた瞬間に永遠に消えてしまったことの一つだったのだと思います。アンは最後にリチャードに愛情を与えながら、最後までリチャードの体の秘密に触れることのないまま退場したし、バッキンガムが子供のころからリチャードのことを愛していたことをリチャードはどれだけ理解していただろうか。

 

人はそれぞれ広大な精神世界を持ちながら、人生のなかで他者とそれを理解しあえるのは、たとえ愛し合う相手であってすらほんの一部なんだなあと思ったりします。そして、その一部も相手の精神に記憶されたとしても、その人が死んだときにまた失われていくわけです。

『薔薇王の葬列』の登場人物たちもそれぞれの精神と体をもって、生まれてきてそれぞれの体験と記憶をもって死んでいったわけです。人生では秘密が全て明らかになったりはしないし、誤解したまますれ違ったまま永遠にとけることはないこともある。結構、そういう部分が『薔薇王の葬列』ではシビアに描かれていると思います。そういうことを受け入れながら人は自分の持つ限られた時間を生きていく。なんかそういうことの悲しさと儚さを感じる物語だなあなど。

 

なんかまだあんまり言葉にしきれない部分があるんですが、とりあえず一回まとめてみました。コミックス発売までにもうちょいいろいろ考えようと思います。コミックス発売2022年6月なので、結構先ですね。

 

 

 

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