It's a rumor in St. Petersburg

アラサー学生です。主にまんがの感想を書こうと思っています。

【感想】『59番目のマリアージュ 毒親の送り方 』アルテイシア(著)

 

 アルテイシア先生は私の好きな作家さんの一人で、ウェブで連載されている「59番目のマリアージュ」や「アルテイシアの熟女入門」をいつも楽しみに読んでいます。内容としては恋愛や仕事、家庭についてのご自身の経験や読者相談を書いていることが多いです。男女差別やあらゆるハラスメントを許さないという強い思いが感じられる文章で、読んでいて励まされたり勇気づけられます。

 そんなわけでいつも楽しみにしているのですが、2018年11月27日にウェブマガジンAMにアップされた「59番目のマリアージュ 毒親の送り方⑤ 弟よ、お前もか」が壮絶な内容だったのですよ。

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アルテイシア先生と59回目のマリアージュ

 「59番目のプロポーズ」はいわゆるエッセイなんでしょうか。著者のアルテイシア先生とその夫さんとの生活をベースに家族や恋愛や仕事といったトピックについて先生の意見や考えたことが書かれています。ちなみに私は、ブログで作家さんについて書くときタイトル以外では「先生」をつけているのですが、大好きな先生なので、ここでは親しみを込めて以下アルさんと書かせてもらいます。

 アルさんが取り扱うトピックのひとつに「毒親」というものがあります。ご自身がご両親から傷つけられてきた経緯があり、どのように苦しんできたか、どうやって自分を立て直してきたかといったことを文章にしたり、その経験を元に読者さんの相談にのったりしています。ウェブマガジンAMで連載されている「アルテイシアの恋愛デスマッチ」の「VERY妻になりたかった母の死から学んだこと」ではご自身の壮絶なお母さんとの経緯と関係を執筆されています。

 

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 これだけ大変なことがあったのに、淡々と起きたこととアルさんの考え・メッセージが書かれており、誰に対しても攻撃的にならずグチもない文章です。

 この人はここまで自分の感情を整理するためにどれだけの労力を払ってきたのだろうか。自分が整理できない感情によって殺されないために、また、自分に起こったことがこれから先に繰り返されないように世の中に発信するために、ものすごく大きなエネルギーを注いてこの文章を書いたのだと思うのです。

毒親の送り方

 「毒親の送り方」は2018年の10月から5回に分けてAMで連載されたエッセイです。

 

毒親の送り方①「父、死亡」の知らせが入る/59番目のマリアージュ|AM

毒親の送り方②警察署でまさかの出会い|AM

毒親の送り方③ まさかの喪主交替|AM

毒親の送り方④ 葬儀には替えを散骨には遺書を|AM

毒親の送り方⑤ 弟よ、お前もか|AM

 

 お母さんは早くに亡くされたアルさんでしたが、この度、お父さんが自殺によって亡くなったことに始まる章です。ユーモアを交えて書かれており、読む側としては構えずに読めるのですが、それでも第5回の「弟よ、お前もか」については絶句してしまいました。お父さんの自死について、

 

「それでももう限界で自殺を選んだなら、それはその人の寿命なのだと思う。」

 

と書いています。「本当にそうだな」、と思う反面、彼女がここまで考えが至るのは、至らざるを得なかったのではないかとも思うのです。これまでの肉親の別れの中で、「私はもっと何かできていたんじゃないか」「そしたら結末は違っていたんじゃないか」、そういう思いで自分を責めた過去があるんじゃないのだろうか。だからこの文章は、悩みの末にでた答えを、自分と同じように悩む人たちに対して「自分を責める必要はない」というメッセージとして送り出した文章なのだと思います。

 

 

 

 また、今回、心に刺さったのは弟さんとの顛末でした。

 

「私はフェミニンな弟を好ましく思っていた。

親戚連中に「男女が逆ならよかったのに(笑)」と揶揄されても、私たちは仲のいい双子だった。

 

と、思いたかったのだ。両親が毒親だから、せめて弟とは仲良しでいたかった。」

 

まさに身を切るような文章だと思いました。そして、彼女の結論です。

 

「私は血のつながらない大切な人を大切にして、生きていく。今の私には夫と義母がいて、女友達がいて、仕事仲間も読者もいる。だから血縁はもういらない。」

 

そうありたい、そうすると強い意志を感じます。

 

 私自身の話ですが、人生で嫌なことがあった時期、毎日泣きながら辛い思いや苦しい思いを整理していました。辛い感情や苦しい感情をどうやってなくせるのか、原因や理由を考えて、抜け出すための努力をひたすらして、「問題はここにあって、こう対処すればいい。だから問題ない。大丈夫、きっと抜け出せる」と寝る前に毎日自分に言い聞かせていました。 でも、次の朝がくると悲しい気持ちで目覚めて「どうしよう、どうしよう」と思う。そして前日したのと同じように感情を整理して「だから大丈夫」と自分に言聞かせる。そういうことを毎日繰り返していました。

 どんなに感情を整理しても、理性で押さえ込んでも、辛い感情はなくならないけれど、でもそれでは生きていけないから、不安や恐怖の中でそれでも自分にとって必要なことを探して、それを自分の意志で選び取っていく、そういうプロセスを積み重ねて今生きていると思います。アルさんと私は違う人だから、私と同じプロセスをたどっているのかはわかりません。それでも、彼女が今の結論を選び取れるまで、どれだけ不安や恐怖と戦って、これだけ強い意志を持つに至ったのか、想像しないではいられません。

そして、これを文章にして発信することの根元には、同じように苦しんでいる人たちがきっとどこかにいて、その人たちを勇気づけたり励ましたりしたいという思いがアルさんの中に強くあるのだと思います。本当に偉いし優しい人なんだなと思います。

余談

 そういえば、アルさんが以前、「半分、青い。」を観て、主人公の家族が主人公のためにアンケート葉書を書くのを見て嫉妬したと書いていました。わからないけどわかります、それ。自分が欲しかったものを象徴するようなエピソードを見かけると、いいなぁと思っちゃう。私は少女漫画で学校休んでお母さんに看病されてるのをみるといいなぁと思っちゃうクチです。