It's a rumor in St. Petersburg

アラサー学生です。主にまんがの感想を書こうと思っています。

【レポ】マンガバルセロナ 菅野文先生ファンミーティング②

引き続き、マンガバルセロナの菅野文先生ファンミーティングのレポートの後編です。

 

 

  

質 問 :(史実とシェイクスピアの作品、それぞれの解釈についてどう思いますか?)
菅野先生:薔薇戦争を調べたイギリスの方の書かれた歴史の本を読んだのですが、他の国の人間から見ると「そうかな?」と思うことはちょっとありました。自分の国のことだと思い入れがあるから、逃れられないなにかがあるのかな。(イギリスの人は)シェイクスピアを絶対的に最初に観ている、知っている。私たちはそうじゃない。歴史のことを純粋にみることが、やりやすのかもしれないとは思いました。

質 問 :(ハードな展開が続くとき、読者の反応を考えて描いているんでしょうか?先生自身、作品内で起こる出来事に感情移入してしまうことはありますか?
菅野先生:読者のリアクションは考えて描いています。私自身も描きながら落ち込むこともありますし、描き終えても作中でのつらいことをしばらく私自身が受けたかのような気持ちになって。キャラクターたちに思い入れがあるので、同情してしまうこともある。自分で描いておきながらなんでこんなことになったのかなとか、ずっと考えてます。

 

 

 


質 問 :(アシスタントさんたちとどうやって作業しているんですか?音楽とかかけているんでしょうか?)
菅野先生:最初から最後までずっとしゃべりながら全ての作業をやっています。そうしないと寝てしまう。最近はアシスタントさんをそのために呼んでいます。作業自体はデジタルになってだんだん一人でできるようになってきたんですけど、多くの漫画家さんがたぶん寝ないためにアシスタントさんを雇っていると思います。たぶん。そのためにも、グループで作業することは必要です。はい。

質 問 :(担当さんへ)(菅野先生との仕事はどのようなものでしょうか?)
担当さん:菅野先生と働くのはとても楽しいです。先生はクールな感じに見えるんですけど、実はとても情熱的で、作品に対する想いが非常に強い先生です。スペインに来てからも『薔薇王の葬列』の話をものすごくしていて常に作品のことを考えていて、読者さんのことも考えられていて、そういうやる気のある作家さんと一緒に仕事をするというのはこちらもすごくやる気が出て刺激になります。


質 問 :(担当さんへ)(担当さんのお仕事はどのようなお仕事ですか?ストレスは高い仕事ですか?)
担当さん:いろいろなことをやるんのですが、一番大切なのは作家さんと打ち合わせをして、作家さんが出してくださったネーム・絵コンテをチェックしてここが面白かったです・ここを修正しましょうという話をして、先生がその間に寝ないで仕事をしてくださって、原稿を受け取るというのが仕事です。菅野先生は非常にしっかりしてらっしゃって、そんなにストレスを抱えたことはないのですけど、いろんなところでいろんなことをやらなくてはいけないので、ストレスはなくはないです。
菅野先生:山本さんは編集さんの中でも変わった人で、面白い人で。すごくアイディアを私にふってきてくれるというか、こういうことをやったらいいんじゃないかとか言ってきてくれるんですけど、いつも突拍子もないので、いつもちょっとそれはどうかな~といいながら、でも気づいたら取り入れてしまう。すごい力を持っている編集さんです。


質 問 :(担当さんへ)(日本の出版業界は女性にとってどのような職場ですか?圧力等あるのでしょうか?)
担当さん:日本でも女性の編集者というのは増えてきているけれども、まだ男性の方が多い。男性社会なのかなと思うことはありますが、女性編集者の多くに感じるのは自分の担当している作品のことがすごい好き、特に秋田書店の編集者は漫画が大好きという共通点がある。男性の上司に対してもこの漫画は絶対面白いから載せてほしいとか、好きがまさって怖いという気持ちがあっても気にせず言っていく気持ちになっているかな。好きであることが原動力になって戦えているのかなと思います。

 

質 問 :(絵を描く作業は好きですか?)
菅野先生:いまだにうまく描けないと思いながら描いてます。絵を描く作業はつらいですね…つらいですね(しみじみとした雰囲気)絵を描くことは好きだけど、描いている最中は全然面白いとか思わないですね。

 

質 問 :(史実とシェイクスピアの原案とのバランスはどのようにとっているのですか?)
菅野先生:それはすごく難しくて… 自分自身がたまにすごく歴史モードにはいっちゃって、歴史のことばっかり考えてしまって、話も歴史の方によってしまう。シェイクスピアモードになっているときはシェイクスピアのネタによってしまう。今はすごくオリジナルに強く寄せている。ここはあえて歴史から離れてみようと思って。わりと行ったり来たりしながら考えながらやっています。

質 問 :(読者の推しカップリングについてどう思いますか?)
菅野先生:あー…
通訳さん:担当さんどうですか?
担当さん:ふらないでよ…
菅野先生:そうですね…私は… どのようにしてもらっても…嬉しいですけれども、なるべくけんかのないように…(会場爆笑)

 

 

 

 


質 問 :(読むのがつらい展開もあります。 苦しいのでチョコを食べながら読んでます)
菅野先生:もうチョコレートをなるべくたくさん買っておいていただいて。自分で書いていても苦しいことばっかりだから… 楽しい、みんなでピクニックに行くみたいな話を書きたいなーと思い続けているんだけど、なんか苦しい話を描いてしまう。めちゃくちゃチョコレート食べながら描いてます。

 

質 問 :(シェイクスピアで描かれているリチャード三世と身体的な特徴を少し変えていますよね。どうしてですか?)
菅野先生:いくつか理由があります。まず最初にリチャード三世を知ったときに自然とアイディアが思い浮かんで。彼のずるいけど賢いという性格と湾曲した背骨というところから、プラトンの『饗宴』に出てくるアンドロギュノスとの共通点が思い浮かんで、そういう変更をしたらおもしろいんじゃないかと思ったのが一つ。また、リチャード三世を日本の商業誌でそのまま描くことはできなかった。そういう制約が日本にはあるので。その二つの理由が大きいです。

質 問 :(どのカップルが好きですか?どういう関係性が好きですか?)
菅野先生:キャラクター二人の関係というより、最初にリチャードがいて、リチャードの人生を描いているという感覚が強くて。リチャードが生きていくうちに人と出会いどういう関係になっていくかということで考えて描いています。相手が誰というより、生きていていろんな人と出会いますよね。その中で関係性が生まれていって人生ができていくという感覚で描いています。二人として描いている場合も、個々で考えています。例えばジョージとイサベルという二人もジョージの人生、イサベルの人生という感覚で描いています。二人という感覚ではあまりキャラクターを描かない。その間に起きる反応みたいなところは楽しんで描いています。

質 問 :(リチャード三世に関するBBCの番組を観ましたか?)
菅野先生:両方観ました。リチャード三世を描いたもので手に入るものは、なるべく観られる限りは観てますけど、日本語版がないので、英語のまま観てもちょっとわかってないところもあるかも知れない。まあ、だいたい内容がわかっているから、観ました。

 


 ここで時間がきて万雷の拍手の中、イベントは終了しました。いろいろなお話が伺えて、すごく楽しかったです。先生の回答がおもしろいので、回答の度に会場から笑いが起きていました。また、担当さんのお話もすごく面白かったです。担当さんへの質問も多く、大人気でした。突拍子もないアイディアってなんだろう…?これとかだろうか…?

 

 

 『薔薇王の葬列』にとても思い入れがあって力をいれてらっしゃるとの回答がありましたが、これは読んでいても強く感じます。『薔薇王の葬列』を命を削って描いていらっしゃる、そんな感じがします。毎号、物語から強い気迫と精神力を感じています。また、キャラクターは二人としてではなく、それぞれの人生があるというお話も物語を読んでいて強く感じていました。それぞれがそれぞれの人生を歩んでいて、道が重なる瞬間が一度あったとしても、状況も考えも変わっていくなかで離れていく瞬間もある。そういうことが描かれているように感じます。

 

次回は、11月3日に行われた菅野先生によるライブドローイングについてレポートを書こうと思います。

 

薔薇王の葬列(12) (プリンセス・コミックス)

薔薇王の葬列(12) (プリンセス・コミックス)